大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(ラ)184号・昭46年(ラ)176号・昭46年(ラ)185号 決定

抗告人両名は、右最低入札価格金一八三〇万円は、鑑定人岩生成美が真実存在しない本件建物の敷地に対する法定地上権を存在するものと誤認してなした評価の過誤を、右裁判所が看過して採用したものであつて、正当な最低入札価格とは称しえず、ひいて民事訴訟法第六五八条所定の最低競売価格の公告がなされなかつたことに帰するから、原決定は取消されるべきであると主張する。

抗告人両名提出の本件建物の敷地と認められる東京都新宿区中落合二丁目一二八四番の一宅地一八八坪四合五勺の登記簿謄本によれば右土地は昭和二八年五月一六日以来最勝寺の所有名義となつていることが認められ、一方本件記録によれば、本件建物は昭和四三年三月二二日付をもつて山形友康名義で所有権保存登記手続がなされていること、また岩生成美提出の本件建物の評価書中に、「一、敷地関係四四坪本件物件所有者の土地である。競売の場合は法定地上権が発生する。」旨および「以上の事実に基づき客観的に評価したものである。」旨の各記載があることがいずれも認められるが、右以外に本件建物の敷地に対する法定地上権の評価に関する記載は何もなされていないのであるから、右鑑定人が本件建物の評価をするに当つて法定地上権の存在を前提として、その評価をも行い、これを本件建物の評価額に加算したものであると即断すべきでないことは言うをまたないところである。

しかるところ、凡そ建物競売事件において当該建物につき最低競売(入札)価格を定める場合には、特別の事情のない限り、建物敷地に対するなんらかの使用権が存在するものとして当該建物の価格を評価すべきものである。もとより右敷地使用権が地上権であるか、賃借権であるか等の差異が建物の価格の評価に影響を及ぼすであろうことは当然に予想されるところであつて、本件競売事件においても右抗告人らの主張する如く本件建物敷地につき法定地上権が発生するものとして本件建物の価格の評価がなされたとすれば、右評価額、従つてまたこれを参酌して定められた本件建物の最低入札価格は、適正な価格に比して多少高価格であつたものと推測しえないことはない。

然しながら、他方不動産競売手続において最低競売(入札)価格を定めることが必要とされる理由は競売不動産の価格を相当額に維持し、これが不当に安価に競落されることを防止することにあるのであるから、仮りに右最低競売(入札)価格が適正時価よりも高価に定められたものであるとしても、直ちにそのことのみによつて競売手続は違法となるものではないと解すべきである。何となれば、競売物件ができるかぎり高価に競落されることは、当該競売手続の利害関係人の利益にこそなれ、何ら不利益にはならないものであり、競売法による競売手続それ自体が目的物件をできる限り高価に売却することを目的としているものと言うことができるからである。

もつとも競買人はできる限り安価に目的物件を取得することを期待して競売に参加するであろうから、最低競売(入札)価格が高額であることは、競売参加者にとつては不利益であると言い得ないではないが、競買人はもともと競買の申出をするか否かの自由を有するのであるから、仮りに最低競売(入札)価格が不相当に高価格である場合には競買の申出をひかえることによつて、自己の不利益を回避することができる筈であるし、また仮りに本件競売事件におけるが如く、本来建物敷地につき法定地上権が発生しないと推測される場合であるにもかかわらず、鑑定人提出の評価書中にあたかも法定地上権が発生するが如き記載があつた場合においても、競売事件記録は各競買申出人の閲覧に供されるのであるから、各競買人は競買の申出をなすに先だち、右記録の閲覧その他の方法によつてみずから法定地上権が発生するかどうかを調査する機会を与えられているものと言うべきである。されば、競売裁判所の定めた最低競売(入札)価格が本来あるべき競売物件の適正価格に比し高額であつたとの一事から、直ちに最低競売(入札)価格の公告がなかつたことに帰するとして、競売手続を違法であるとすることはできないものと言わなければならない。なお、本件記録によれば、本件建物の敷地には建物所有を目的とする賃借権の存在することが推測されるところ右賃借権については建物保護法及び借地法による保護があることを考慮に入れるときは、法定地上権の発生を前提とする前記鑑定人の評価額を参酌して定められた本件最低入札価格が、適正価格に比し不相当に高額であると言い得るかどうかも疑問であると言わなければならない。

(平賀 石田実 安達)

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